キンモクセイの憂鬱

この辺りの何処を歩いても金木犀が香る季節も、あっという間に過ぎてしまった。
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俺は幼い頃からこの金木犀の匂いが好きだった。
あの何とも言えない鼻をくすぐるような甘い匂いに、身体を全て委ねたい願望があった。


この季節になると思い出す、甘く、そして苦い記憶。



あれは・・・、

まだ成人してそこそこ、初めて自分の所有する車を手に入れた年だ。

知人から譲り受けた、そこそこ年季の入ったSUBARUレオーネ4WDワゴン。
遊びたい盛りの俺は、廃車まで本当に幸せに自動車生活を送らせてもらった。

何しろこの車を一つの国に見立てれば、車の中では俺は絶対的な国王である。
暴君と呼ばれ用が何しようが、車の中では誰に何の文句も言わせない。
俺はたまたまそういった方向には向かわなかったけれども、車内を土足禁止にする連中の気持ちが解らないではないのだ。
乱暴な話だが、「文句があるなら乗るな」とか「降りろ」なんて言える訳で、やろうと思えば好き勝手に車内を装飾出来るし、アフリカ音楽や沖縄民謡を聴いたり、とにかく自由に出来る、それが許される空間だった。

まあ、俺は矢沢永吉のステッカーを貼ったり、ダッシュボードにUFOキャッチャーの景品を並べたりする事もなく、常に釣竿や仕事の道具を載せた状態になっているだけだったが…。

話が外れてしまった。

秋も深まった丁度今頃、俺は翌日の釣りキャンプの準備をしていた。
借りていた駐車場の敷地内に大きな金木犀が何本も植わっていて、それが本当に良く香っている。

ふと思い立って、地面に散ったその橙色の花びらを大量に掻き集めて紙袋に入れた。
車の中が本物の金木犀の香りに包まれたらどんなに素敵だろう、俺はそう思ったのだ。
そして匂いが車内をくまなく巡るように陽の当るダッシュボードの上に置いた。
翌日は釣り場まで俺は幸せに運転して行けるに違いないのだ。
天然のポプリという奴だな・・・。


翌日、期待に胸を膨らませ、ワクワクしながら夢にみる程に憧れていた「走る金木犀号」に乗り込む。
狙い通り、鼻を突く程の香りで車内は充満していた。
目を閉じて深呼吸をする。
俺の心は深呼吸を繰り返す程に幸福感で満たされる予定だった。

ところが、現実というものは厳しい。

深呼吸の三度目の辺りから、期待とは裏腹にある一つの連想が頭をよぎった。
俺の鼻孔をくすぐる甘い匂いが、あるものを連想させた。

呼吸の度にその連想が膨らんでいく。
それは次第に柔らかな幸福感を押しのけてどんどん膨らみ続け、やがて虚しさと共に俺の心を占拠してしまった。

「ああ、そうかぁ、気付かなかったよ。がっかりだぜセニョリータ」

全く予想していなかったのだが、よくよく考えてみれば至極当然の成り行きではないかと思う。
車内という閉ざされた空間という事を考慮すべきであった。
一度思い込んだらそれ以外には考えられなくなった。

人間の固定観念というのは恐ろしいものだと思う。
条件反射で腹が活発に活動してきた気もする。
思わず腹を押さえてしまった。


俺はがっくりとうなだれたままハンドルを握り、この状況をどう処理すべきか考えた。

便所王国。

「走る金木犀号」は「走るさわやかサワデー号」と名前を変え、青梅街道をひた走っていた。

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by angelwhisker | 2008-10-21 16:04 | その他

ヨッスィーが凸凹猫コンビ、タビーとチャイの可笑しい生活を綴る。路地裏の猫達に幸せを届ける『マタタビ至福団』の本部。


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