血のバレンタイン

世の中、バレンタインデーだそうだ。

我が家は今は結構冷めている。
旧知の友人からは「昔からじゃん」と突っ込まれそうだが・・・。


「ねぇ、あなたバレンタインチョコ欲しい?」

「う〜ん、別に・・・」

「あ、そう」


以上。
バレンタインデーに関しての会話はこれで終わりだ。
だからといって、夫婦間が冷めているという事ではない。


あ、もう少し会話したか。

「もう何処のチョコレートも一通り美味しくなったから、有り難みも欠けるしね」

「そうねぇ、結構チョコ食べてるもんねぇ・・・」

妻はあまりチョコレートを食べない。
頂き物の高級チョコレートの賞味も専ら俺の役割だ。

e0058443_1636886.jpg




そういえば若かりし頃・・・

典型的な義理チョコ以外は、一度たりとも貰った事が無かった少年時代。

それは小学生の頃から幾重にも重ねられてゆく、悪夢のミルフィーユだ。
甘酸っぱいとかホロ苦いなんて生易しいものではない。
バレンタインデーなんていう行事を始めた菓子業界を恨めしく思い、二月に入るとうつむき加減になる少年だった。


ところがだ。

学生時代になって、唯一、当時好きだった女性からチョコレートを貰った事がある。
とはいえ、そのチョコレートがいわゆる義理なのか本命なのか、貰った当人は皆目見当がつかないのだったが、そんな事はある意味どうでも良かった。
正直に、生まれて初めてバレンタインデーに感謝した。

彼女と酒を呑み、肝心のチョコの真意を訊く勇気もないまま、俺は彼女を駅まで見送った。
駄目駄目な意気地なしなのだが、ヘベレケでありつつも御機嫌な俺は、浮かれていたのだろう、終電に間に合う時間帯にも関わらず歩いて自宅まで帰るつもりでいた。

距離にして約八キロ。

歩いて帰れない距離ではないが、泥酔に近い状態では険しい道のりだった。
いつもは酒を呑みすぎれば頭がガンガン痛くなるのに、その日だけはどういう訳か全く痛くない。
俺は何だか浮き浮きしながらただひたすら北を目指し、千鳥足でいながら途中何度もガッツボーズを決めて、訳の判らない酔っぱらいと化していた。

どれぐらい歩いただろう。
ヨレヨレに歩いているので随分無駄な距離を歩いているに違いないのだが、幸せの絶頂だった俺には、むしろ延々と続く至福の時間だった。

物凄い衝撃を感じたのは、それからしばらく経ってからだ。

気が付けば電柱の前でだらしなく地べたに座り込んでいた。
俺は自分の身に何が起こったのかさっぱり解らず、誰かに殴られたのかと周りをキョロキョロ見回したが、暗がりには人っ子一人見当たらない。

しばらく考えて、何か唇から落ちそうな気がしてぺろりと舐めると金属の味がした。
上唇が腫れて、口の中にはジャリジャリと何かを感じた。
舌でなぞると、前歯が欠けていた。


酔った頭で一生懸命考え、ようやく結論に至る。

e0058443_16363993.jpg



顔面から電柱に激突したらしい。


チョコレートを貰った喜びと、苦痛無しに酒に酔えた自分に自然と笑みがこぼれた。
口から血を流し、クスクスと笑うしゃがみ込んだ大男。
端から見たら気味が悪い状況だ。

人間は歩きながら眠れるのだ、と実感した。
若かりし俺の、恥ずかしくも懐かしいバレンタインデーの出来事である。

欠けた前歯に是非一票!
1日1クリック有効です。
  ↓
人気ブログランキングへ
[PR]
by angelwhisker | 2007-02-14 16:38 | 行事

ヨッスィーが凸凹猫コンビ、タビーとチャイの可笑しい生活を綴る。路地裏の猫達に幸せを届ける『マタタビ至福団』の本部。


by angelwhisker

プロフィールを見る
画像一覧

カテゴリ

全体
我が家の猫
マタタビ至福団
他の猫
料理と美味
外出
熊五郎
道具
栽培
行事
インテリア
年賀ネタ
安倍川茶伊太郎先生

息子
健康
告知
その他

タグ

(277)
(91)
(47)
(44)
(39)
(33)
(28)
(25)
(25)
(20)
(19)
(19)
(18)
(18)
(17)
(16)
(16)
(15)
(15)
(12)

ブログパーツ

最新のトラックバック

欲求不満
from 難攻不落の熊本城
体にフィットするソファ
from Stlpd28の音楽生活
ボロタワー
from にゃんちんと一緒
療法食開始
from ねこぱんち
寝違えないタヌキ
from ねこぱんち

検索

以前の記事

2017年 05月
2013年 01月
2012年 01月
2011年 10月
2011年 09月
more...

その他のジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧