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草津良いとこ一度はおいで〜の話

あらかじめ断っておくが、この記事は猫の話題ではない。
青春の切なくも甘酸っぱく、それでいて苦い思い出の話である。

猫の病気や手作り食の記事が参考になり(妹の家の猫が罹患)、心ときめく美味しそうな食べ物が時々登場するので見に行く『Oshare館のお猫様』の記事たねやのフルーツティーに心惹かれ読んでいるうちに、近江地方の草津という地名に目が留まった。

草津と言えば、あの頃を思い出す・・・。
短い間であったが昭和64年の出来事である。



生まれて初めて奈良京都に行った。
修学旅行生が絶対居ない時期ということで、正月に決まったのだ。
『初詣は京都で』が合い言葉だったかもしれない。
友達が所有する1boxカーを運転し、大音量の音楽と共にハイテンションで真夜中の東名を走り抜けた。
宿など押さえている訳が無い。
皆金が無いので、シートを全て倒して寝袋での睡眠だ。
顔を洗って三時間もすれば顔がてらてらと光ってしまうような、そんな二十歳前後の、男四人の珍道中である。
徹夜で走って着くなりあちこちにお参りし、てらてらの顔がぎとぎとの顔に変貌していった。
誰も彼も目の下の隈がひどくなっているし、陽が落ちて腹も減ってきた。

それだから、何よりも俺たちは銭湯を探していたのだ。
一ッ風呂浴びてからビールを買って、琵琶湖の畔に車を停めて酒を飲みながらの雑魚寝だろ、そういう勢いで動いていた。

琵琶湖周辺で『草津』の標識を発見してから話はややこしくなっていく。

「おい、ちょっと待て。草津と言ったら、温泉だろ。草津よいと〜こ一度はおいで〜お湯の中に〜も〜コ〜リャ花が〜咲くヨ〜チョイナチョイナ、だろ」

歌まであるんだから大温泉街があるに違いない。
知ったかぶりの俺の発言に、輪を掛けて無知な三人が踊らされ夜の温泉大捜索を開始する。
ところが、何しろ高速のパーキングで手に入れた大雑把な地図しか持ち合わせていなかった。
大体にして無知のなせる技だが、温泉の草津は群馬なのだ。見付かる訳が無い。
どうも『草津』違いらしいと気付いたのは真夜中になってからだった。
踊らされた三人はあまりに疲れ果てて、あまり文句を言わなかった。
当然温泉は諦めて、夜中までやっている銭湯を探し、今度はどうにか入浴することが出来た。

体を温め機嫌も良くなったところで酒も買ったし、折角ならやはり琵琶湖畔で朝を迎えようと全員の意見が一致した。
よく判らない地図を懐中電灯で照らしながら農道を迷いつつもひた走る。
砂利道に加え、ほとんどの道が道標も街灯も無いので何度か脱輪しそうになった。
交代して欲しかったが無理なのは判っていた。
運転は当時俺しか出来なかったのだ。
迷い迷った挙げ句、ようやく湖畔の公園らしき一角にたどり着いた。
車のヘッドライトを消せば真っ暗闇だ。
湖面に反射する対岸の夜景を眺めながら、到着の乾杯をして酒を酌み交わす。
しかしそれも束の間、あっという間に窓は曇って車中は酒とつまみの匂いで充満していった。
後はもう泥のようになるまで酔うだけだ。
若かったので限度を知らない飲み方で、全員ヘベレケになっていく。
寝袋に入る前にきりりと身の引き締まる闇の中で、琵琶湖畔の夜景を眺めながらの小便は最高に気持ちが良かった。

そして朝、というよりも昼である。
男四人の体臭と酒臭い吐息が充ち満ちた車中を脱し、今にも破裂しそうな膀胱から水分を放出しなければならない。

車のスライドドアを開けて靴を突っ掛け外に出る。
俺の濁り切った目の前に、氷の張った一面の田んぼが果てしなく広がっていた。
by angelwhisker | 2006-01-05 22:20 | 外出

ヨッスィーが凸凹猫コンビ、タビーとチャイの可笑しい生活を綴る。路地裏の猫達に幸せを届ける『マタタビ至福団』の本部。


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